暫定版です
隅谷・長島理論__暫定版).pdf
暫定的にアップします。
以下の文は図表や特殊文字などが上手くアップできませんでしたが、とりあえず掲載します。掲記のPDF版が正式版です。
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ゆき:本題に入りたいと思いますが、隅谷・長島理論とはどういう理論ですか?
時駆老人:一言で言うなら、産業論の包括的体系の構築です。現代の高度化・複雑化した産業の分析にとっては必須の理論です。
50年以上前の1967年に出版された隅谷三喜男先生編著の『鉄鋼産業の経済理論』において、長島敏雄さんが、ブリキ薄板(鋼板)に着目し、そこにおける八幡製鉄とそのユーザーである東洋製缶の関係において、ある種の競争関係、言うなれば間接的な競争関係にあると示唆したのが始まりと言えそうです。
例えば、1つの製品があり需要関数が与えられたとします。その製品において、多くの企業が部品を生産したり、それを組立・加工し製品化したりと関与していますが、その関与している企業間に如何なる直接的・間接的な競争関係が存在するのかと言うのかが課題です。そして、ある企業から見た時、市場がどのように見えるのか。例えば、間接的な競争における利潤最大化行動とは如何なるものなのかとか、需要関数はそれぞれ如何なるものなのか等々。
ゆき:先ずは、単純化して具体的な数値で見てみないとイメージが湧きにくいかも知れませんね。
時駆老人:そうですね。単純化して2者競争でみることにしましょう。或る製品がそれぞれ独占の2つの企業の分業により生産されているとします。それぞれ、サブシステム1における企業10と、サブシステム2における企業20として、
需要関数 P=100-q
単位費用をそれぞれ、C10=20、C20=30とします。両者ともクールノー的な行動(k10=k20=1)を採ったなら、市場均衡はどうなるかというと;―
関係式はP=(a+kⅭ)/(k+1)ですので、これに代入すれば良いだけですが、ここで注意を要するのが、直接的な競争のみの場合はk=k01+k02であったのに対し、間接的な競争の場合は、1/k=1/k10+1/k20の関係にあります。ですので、両者ともクールノー的な利潤最大化行動を採るなら、
1/k=1/k10+1/k20=1/1+1/1=2ですので、k=1/2となります。
単位コストはC=C1+C2=20+30=50ですので、
価格P=(a+kⅭ)/(k+1)=(100+0.5*50)/(0.5+1)=250/3≒83.33
供給数q=100-P=q10=q20=50/3≒16.66
供給数1個当たりの利益(単位利潤r)は、以下の様に計算されます。
r10=k(a-C)/[k10(k+1)]=0.5*(100-50)/(1*1.5)=50/3≒16.66
r20=k(a-C)/[k20(k+1)]=0.5*(100-50)/(1*1.5)=50/3≒16.66
それぞれの企業の利潤はπ10=π20=2500/9≒277.78
ゆき:以上をまとめて整理しておきますと以下の様になります。
表1:双方がクールノー的行動を採った場合
(表)・・・冒頭にアップしたPDF版を参照ください
利潤は費用とは無関係であり、kの値のみに依存します。
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全体の構造を理解するために、
補足1
サブシステムhにおけるj番目の企業をkhj、Ⅽhj、qhj、…、とサフィックスhjをつけて表記する。サブシステムhの合計として、kh、Ⅽh、qh、…、とサフィックスhをつけて表記。
サブシステムhとサブシステムh内の個々の企業の関係(合成)
kh=Σkhi=kh1+kh2+,…,+khn
サブシステムのコストの合成には以下の様な調整が必要です。
Ch=(ΣkhiChi)/kh=(kh1Ch1+ kh2Ch2+,…..,+khnChn)/(kh1+kh2+,…,+khn)
q=qh=Σqhi
全体とサブシステムの関係(合成)
1/k=Σ1/ki=1/k1+1/k2+,…,+1/km
Ⅽ=ΣCi=C1+C2+,…,+Cm
(サフィックスの付け方について)
尚、例えば独占の場合、直接的な競合企業が存在せず区別する必要がない場合はj=0とし、
この場合は、kh0=kh、Ⅽh0=Ch、rho=rhであり、特には区別しないものとします。
また、導入編の様に直接的競争のみを扱う場合はh=0と表記します。
具体的な数値で計算しておきます。
それぞれのkhj及び単位コストChjが与えられれば均衡がもとめられます。例えば、サブシステム1は2者競争、2は3者競争、3は4者競争として、それぞれ
k11=4.8、k12=3.2、C11=15、C12=15.5
k21=5、k22=3、k23=2、C21=3.4、C22=3.8、C23=5.3
k31=8、k32=4、k33=16、k34=12、C31=30、C32=30.3、C33=31,C34=31.5
それぞれを合成し、
k1=k11+k12=8、k2=k21+k22+k23=10、k3=k31+k32+k33+k34=40、1/k=1/k1+1/k2+1/k3=1/4、よってk=4
C1=(k11C11+k12C12)/k1=15.2、C2=(k21C21+k22C22+k23C23)/k2=3.9、C3=(k31C31+k32C32
+k33C33+k34C34)/k3=30.9、C=C1+C2+C3=15.2+3.9+30.9=50
システム全体としては、単位コスト50のクールノー的な利潤最大化行動を採る4社による競争に集約できます。
価格は、P=100-q=(a+kⅭ)/(k+1)=(100+4*50)/(4+1)=60
供給数は、q=100-P=40
単位利潤は、r=P-C=(a-C)/(k+1)=50/5=10、
サブシステムの単位利潤比は、r1:r2:r3=k/k1:k/k2:k/k3の関係にありますので、
r1=k*r/k1=4*10/8=5、r2= k*r/k2=4*10/10=4、 r3= k*r/k3=4*10/40=1
例えば企業hjの供給数は、khj=qhj/rhjの関係より、
q11=k11r11=k11*(r1+C1-C11)=4.8*(5+15.2-15)=24.96
q12=k12r12=k12*(r1+C1-C12)=3.2*(5+15.2-15.5)=15.04
同様に、qhjを計算していきます。
纏めますと、
表2:システム全体
(表)
単位コスト50のクールノー的な利潤最大化行動を採る4社に集約。
次に、サブシステムに展開しますと、
表3:サブシステムへの展開
(表
単位コスト15.2のクールノー的な利潤最大化行動を採る8社、単位コスト3.9のクールノー的な利潤最大化行動を採る10社、単位コスト30.9のクールノー的な利潤最大化行動を採る40社による間接的競争に展開。
次に、各企業に展開すると、
表4:企業への展開
(表)
サブシステム内の直接的競争に展開、およびコストの補正。
補足2
間接的競争及び直接的競争における最大化条件を記しておきます。例えば、企業11(独占の場合は企業10)の利潤最大化条件は;―
k11= +1/( +1)
直接的競争のみなら、他のサブシステムに関する1/(Σ1/ki+1)項は捨像され、
k11=k12+…+k1n+1
独占で直接的な競争が無いなら、サブシステム内の競合に関するΣk1i項は捨像され、
1/k10=1/k2+1/k3+….+1/km+1
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ゆき:そして、実際には企業はクールノー的な行動を採っている訳でもなく、任意のkhjを採っているんですよね。
時駆老人:そうですね。例えば、独占企業10が利潤最大化を図るなら、間接的な競争の場合の条件は、
k10=1/(1/k20+1)
ですので、企業20がクールノー的な最大化条件であるk20=1を採るなら、企業10が
k10=1/(1/k20+1)=1/(1+1)=0.5を採ると企業10の利潤は最大化します。kを求めると、
1/k=1/k1+1/k2=1/0.5+1/1=3となりますから、k=1/3
P=(a+kⅭ)/(k+1)=(100+1/3*50)/(1/3+1)=250/3=87.5、供給数はq=12.5で、それぞれの1単位当たりの利潤r10、r20は、
r10=k(a-C)/[k1(k+1)]=1/3*(100-50)/(0.5*4/3)=25
r20=k(a-C)/[k2(k+1)]=1/3*(100-50)/(1*4/3)=12.5
と計算されますから、企業10の利潤π10=r10*q=312.5、一方、企業20利潤π20=156.25
如何なる場合であれ、k=1が全体の利潤最大化条件となりますから、その際の価格はP=75ですが、いずれもこの価格を超えていますね。間接的な競争の場合は、利潤フロンティア上にあるための条件は1/k1+1/k2=1を満たす必要が有り、この場合、両者の合計利潤は最大化(π10+π20=625)しますので、両者ともにより競争的に振る舞うことが必要なようです。例えば、k1=2ならk2=2,k1=3ならk2=1.5といったケースで両者合計の利潤が最大化します。
ゆき:k1=2ならk2=2,k1=3ならk2=1.5といったケースも計算しておきます。
表5:両者合計の利潤最大化(1/k=1/k1+1/k2=1の条件を満たすケース)
(表)
合成の誤謬とでも言うべきなのか、部分最適は必ずしも全体最適とはならないと言うべきなのか、各々が利潤最大化的な行動を採ると、逆に利潤は減ってしまうことになる様ですね。
ところで、間接的な競争の場合の需要関数と言うか、ある種の反応関数と言うべきなんでしょうが、どうなるんでしょうか。
時駆老人:間接的な競争の場合、取引関係などによって、コストの重複なども有って、厄介なところが有るのですが、そのため、コストを捨象し、利潤のみに着目して分析されるようです。そうしますと同じ土俵で比較できますし。コストに関しては、全体を次の様に纏めてしまい、
C=C1+C2+,..+Cn=Σk1iⅭ1i/k1+Σk2iⅭ2i/k2+…+ΣkniⅭni/kn
これを実効単位費用Ⅽとして一括し、且つ捨象してしまう手法です。需要関数から単位コストⅭを捨象したものを補正需要関数ないしは単位利潤関数としてrで表現しますと、
r=P-Ⅽ=100-Ⅽ-q
例えばそれぞれの単位利潤関数は以下の様に表されます。企業10が利潤最大化した際のk10=0.5、k20=1,k=1/3、Ⅽ=50を代入しておくと、
r=(a-Ⅽ)-q=50-q
r10=(a-Ⅽ)-(1/k20+1)q=50-2q
r20=(a-Ⅽ)-(1/k10+1)q=50-3q
これに対して一種の供給関数とでもいう物でしょうか、
r=q/k=3q
r10=q/k10=2q
r20=q/k20=q
それぞれの交点はで単位当たりの利潤が求められますが、以下の式から計算できます。
r=(a-Ⅽ)/(k+1)=50/4/3=37.5
r10=k(a-Ⅽ)/[k1(k+1)]=1/3*50*3/2=25
r20 =k(a-Ⅽ)/[k2(k+1)]=1/3*50*3/4=12.5
当然ですが、r=r10+r20 です。
ゆき:ここで以上を整理しておきますと以下の様になります。
表6:企業10が利潤最大化
(表)
図で表しますと、
x軸に数量q、y軸に単位利潤rの座標に描くと、q=q10=q20=12.5の垂直な線上で、それぞれの単位利潤関数と供給関数が交わることになります。
図1:単位利潤関数と供給関数の交点の関係(q-r平面への投影)
(図)
需要関数というか、単位利潤関数と言うべきでしょうが、他のサブシステムの競争状態というかkhの値によって大きく変化するんですね。他のサブシステムの寡占度が高まれば高まるほど単位利潤関数は急峻になりますし、ある意味では市場が縮小したように見えそうですね。
時駆老人:そうなります。あるサブシステムから見ると他の間接的競合関係にあるサブシステムの競争状態を表すkhの値によって、市場が拡大したり縮小したりするように見えてしまいますね。実際の製品って多数のサブシステムから構成されていますし、それらの寡占度如何によって直面する市場は変化します。
先ほど企業10の単位利潤関数として、以下を示しましたが、これって
r1=(a-Ⅽ)-(1/k2+1)q=50-2q
となりますので、システム全体の単位利潤関数の傾きが-1であったのが-2と急峻になってしまってます。
更に追加してサブシステム3を加えると(尚、サブシステム1,2は独占ですから、k10=k1、k20=k2)、
r1=(a-Ⅽ)-(1/k2+1/k3+1)q
更に、サブシステムを追加していくと
r1=(a-Ⅽ)-(1/k2+1/k3+1/k4+….+1/kn+1)q
となるんですが、ここで、
α1=1/k2+1/k3+1/k4+….+1/kn=1/k-1/k1
とおいて、このα1をサブシステム1の従属度と定義し、これをz軸として追加し、単位利潤関数は3次元で表記されていました。そうしますと
r1=(a-Ⅽ)-(1/k2+1/k3+1/k4+….+1/kn+1)q=50-(α1+1)q
と表現されるのですが、α1の値が大きくなるほど、つまり従属度が高くなるほど、サブシステム1から見える単位利潤関数は急峻となり、実質的に市場が縮小します。
他のサブシステムの全てが完全競争ならr1=50-qなのが、α1が大きくなるのに従い、直線の傾きが-2とか-3とか、どんどん急峻になって行きます。それと、サブシステムの利潤って、1/khに比例し、例えば、k1=1、k2=1.5、k3=2.3、…、kn=0.5なら、サブシステムとしての利潤の比はπ1:π2:π3:...:πn=1/1:1/1.5:1/2.3:…..:1/0.5という関係になります。
ゆき:図をかきますと、以下の様になりますね。
図2:q=12.5の「r-α平面と平行な面」と単位利潤曲面との交線(r-α平面への投影)
(図)
時駆老人:上の図2は従属度αと利潤の関係を表したものですが、この直線を式で表すと、
r=(a-C)(1-kα)/(k+1)
となるのですが、上の図2の前提では、k=1/3ですので、
r=50(1-α/3)/4*3=37.5-12.5α
となり、r軸との交点の37.5が全体の単位利潤となり、サブシステムの従属度の数値を代入するとそれぞれのサブシステムの単位利潤が求められる構造になっています。サブシステム1はr10=r1=37.5-12.5α=37.5-12.5=25となり、2はr20=r2=37.5-12.5α=37.5-25=12.5となり、r=r10+r20が成り立っています。
単位利潤曲面(図3として後ででてきますのでそれを参照ください)をq=12.5の「r-α平面と平行な面」で単位利潤曲面を切った際の交差する直線を表したものです。
ゆき:サブシステムの利潤って、相対的なものであり、且つkの値のみによって単位利潤は決まるのであって、コストは全体としては影響しても、個々のサブシステムにおいてはそれほど大きな意味を持たない様ですね。例えばサブシステム1のコストダウンの寄与は1/khに応じてサブシステム2も享受できるってことですし。導入編でみた、直接的競争の場合はコストが競争関係において大きな意味を持っていましたけど、間接的な競争におけるコストの意味合いというものはかなり異なってきますね。
時駆老人:そうですね。そもそも、サブシステムの個々のコストを捨象して分析がなされていますし、システム全体としては意味があっても、個々のサブシステムに関しては、特には意味が無いというべきなのかも。言うなれば、競争的なサブシステムほどコストダウンが進むのでしょうが、その恩恵は寡占的なサブシステムにより多く帰属します。
ゆき:話を戻しますが、コストに関しても実際に影響するのは”実効”コストと言う、kで一種の加重平均を採ったようなコストの方なんですね。導入編の方では敢えて触れませんでしたけど、
例えば、導入編の直接的競争に於けるシュタッケルベルグの企業01主導、企業に主導のケースですと、
C=(k01C01+k02C02)/k1=(2*50+1*60)/(2+1)=160/3≒53.33が実効単位コストであって、
P=(100+kC)/(k1+1)=260/4=65
と計算されるべきなんですね。実際の平均コストは、
(C01q01+C02q02)/(q01+q02)=(50*30+60*5)/35=1800/35=360/7≒51.43
となるんですが、実際の平均コストより実効平均コストは若干高めになりますね。
時駆老人:実際のコストに置き換えるには補正が必要となりますが、例えば、サブシステム1の企業11の単位利潤は、
r11=k(a-C) /[k1(k+1)]+t11
と表現されますが、ここでt11は、単位コストの補正項で、以下の様になります。
t11=C1-C11=[k11(Ⅽ11-Ⅽ11)+k12(Ⅽ12-Ⅽ11)+……+k1n(Ⅽ1n-Ⅽ11)]/k1
です。
ここで、サブシステム1を1者の独占から2者競争に拡張し、且つ、シュタッケルベルグ的な最大化行動を企業11がとり、一方、企業12はクールノー的最大化行動、企業20もクールノー的最大化行動を採るとして、試算しておくと、
条件を、C11=19、C12=22、C20=30、k11=2、k12=1、k20=1として、単位コスト及びkの合成を行い、
C1=(k11Ⅽ11+k12Ⅽ12)/k1=(2*19+1*22)/3=20、Ⅽ=C1+Ⅽ2=50
1/k=1/k1+1/k2=4/3ですので、k=3/4
それらを、代入して価格、単位利潤、供給数を求めると、
P=(100+kⅭ)/(k+1)=(550/4)/(7/4)=550/7、q=100-P=150/7
r1=k(a-Ⅽ)/[k1(k+1)]=3/4*50/[3*(3/4+1)]=50/7
r2=r20= k(a-Ⅽ)/[k2(k+1)]=3/4*50/[1*(3/4+1)]=150/7
q11=k11r11=k11(r1+C1-C11)=2*(50/7+20-19)=114/7
q12=k12r12=k12(r1+C1-C12)=1*(50/7+20-22)=36/7
などと、計算されます。
ゆき:整理しておきますと、
表7:全体からのサブシステム、個別企業への展開
間接的な競争の場合、個々のサブシステムに関して、直接的競争関係にある全ての企業を集約して、単位コストⅭhを持つクールノー的利潤最大化行動を採る企業数khとして扱いますし、それが間接的な競争において実質的に意味を成すってことですね。
それと、実数計算の仕組みって、個別企業から計算し、それを積み上げるのではなくて、逆に全体を計算してから、サブシステム、更には個別企業に展開していくんですね。
それから、企業11はサブシステムという枠組みではシュタッケルベルグ的な利潤最大化行動となっていますけど、サブシステム2も斟酌した場合には、利潤最大化とは言えないんですね。
時駆老人:単に直接競争の相手のみではなく、間接競争に対しても斟酌する必要があります。
企業11の間接競争も含めた利潤最大化条件は、
k11= +1/( +1)=k12+1/(k2+1)=1+1/2=3/2
となりますから、k11=2をk11=3/2に置き換えると、企業11の利潤最大化となります。
ゆき:計算をしておきますと、
表8:企業11の利潤最大化
表3と比較すると、最も恩恵を受けるのは、企業11ではなくて、企業12の方ですね。企業11にとっては、価格上昇の恩恵は有りますが数量減となりますし、一方、企業12にとっては価格上昇に加え数量増加となりますので。それに引き換え、企業22にとっては価格下落・数量減のダブルパンチですね。
仮に、企業11がk11=k12+0.5の関係を維持するなら、企業12の利潤が最大化するのはk12≒0.39898の場合ですね。企業11と企業12にコスト差が無ければ、k12=0.5の時に追随としての利潤が最大化することになります。
チョット、余談になりますが、上の表の計算って意外に簡単で、k=5/7、C1=20.2、Ⅽ=50.2を求め、P=(a+kⅭ)/(k+1)=317/4を計算しますと、あとはq=100-P=83/4、r=P-C=317/4-50.2=29.05、およびr:r1:r2=1/k:1/k1:1/k2=7/5:1/2.5:1/1=7:2:5の単純な関係ですから、そこからr1=kr/k1=5/7*29.05/2.5=8.3を求め、更にq11=k11r11=1.5*(r1+Ⅽ1-Ⅽ11)=1.5*(8.3+20.2-19)=14.25と計算することによって、簡単に表に数値を埋めることができます。
ゆき: 少し横道に迷い込んでしまいましたけど、話を戻して、単位利潤曲面について見てみたいと思いますが。
時駆老人:まずは、ゆきさんに描いて頂いた図の構造から見ておくべきでしょうが。ゆきさんから説明していただいた方が良いのでは。
ゆき:実に不思議な曲面ですね。最初、お話を聞いた時にはさっぱり意味が分からなかったのですが、一つ一つ整理していくと、一見なんてことは無さそうでいて、実に意味深い図が出来上がりました。
図3:単位利潤曲面
(図)
時駆老人:私の理解不足に加え、非線形のケースまでごっちゃにしてしまったので、復元はかなり厄介だったでしょうね。
ゆき:0から作るのでしたら、そんなアイデアは浮かびさえしませんが、おおまかでも全体像が示されれば、復元するのって意外に簡単なもんですね。
話を戻しますが、
”q-r平面”と平行な平面で切ると、交線は全て直線(図1)ですし、同じく、”r-α平面”と平行な平面で切っても交線は全て直線(図2)となります。それぞれの平面である、q-r、r-α、q-αの3つの平面との交線は、それぞれ、
r=50-q
r=50
α=1/k=(50-q)/q
で表されるのですが、q-r平面との交線は、α=0ではなく、敢えてα=-1へとずらしてr=50、α=-1のq-r平面に平行な平面を基準にするるんですね。何も敢えて、そんな芸当を使わなくとも良いのではと思ったのですが、意外に便利で、且つ普遍性も有る様です。
図4:需要関数が非線形
「r-α平面と平行な面」と単位利潤曲面との交線(r-α平面への投影)
(図)
例えば、需要関数がP=100- の様な非線形であってもずらすことによって容易に解を求めることができますし。例えば、s=0.8としますと、-1の代わりに-1/0.8=-1.25ずらしたところから直線を引けば良いだけです。非線形であっても簡単に解を求められ、例えば、サブシステム1の単位利潤ならば、以下の式に数値を代入するだけで求められます。
r1=sk(a-C)/[k1(k+s)]=0.8*1/3*50/[0.5*(1/3+0.8)]=400/17
単に代入するだけで、厄介な計算は不要です。単に1を0.8に置き換えするだけで、線形の場合と同じ要領で解が求められます。
比例計算で、r1:2=50:(3+1.25)の様にしても求められます。(-1/s、50)の直線を起点にして、α=1/kへ直線を引くだけで良いです。
話を戻しますが、平面で考察するより、曲面で考察する方が、情報量が増えますし、なにかと計算も楽そうです。
それと、非線形を線形の様に変換してしまうってのは、不思議なもんですね。これって、kの持つ特性とでも言ったら良いかも。kの意味って、
例えば、需要関数をP=a-bq.. としますと、k11なら、
k11=bsq11/(r11q.. )
となる様です。P=100-qとすれば、s=b=1ですので、k11=q11/r11と単純化でき、単に[(企業11の供給数)/(企業11の単位利潤)]となりますが、非線形の場合は少々複雑ですね。非線形を線形の様に変換できる秘密ってのは、どうもkの式を見れば納得できる感じがします。kには非線形を線形に変換する機能が内包されているんですね。
次にkの合成の仕組みを見てみると
k1=k11+k12+,…,+kn= bsq11/(r11 )+ bsq12/(r12 )+,…,+ bsq1n/(r1n )
=bs(q11/r11+q12/r12+,..,+q1n/r1n) /
となるんですが、q11/r11+q12/r12+,..,+q1n/r1n=q/r1なんですね。というか、そうなるように調整されていると言うべきなんですが、そうしますと、
k1= bs(q/r1) / =bs /r1
1/k=1/k1+1/k2+,…,+1/kn=r1/ bs + r2/ bs +,…,+ rn/ bs =r/ bs
こんな合成の仕組みになってるんです。
価格や単位利潤の式を比べてみると、
価格は、
P=a-q=(a+kC)/(k+1)
P=a-b =(sa+kⅭ)/(k+s)
単位利潤は、
r= a-Ⅽ-q=(a-Ⅽ)/(k+1)
r=a-C-b =s(a-Ⅽ)/(k+s)
非線形の場合、線形における1がsに置き換わると言うか、寧ろ、線形の場合はs=1となるだけのことで、線形も非線形も特には大した差異は無さそうです。
尚、q-r平面で切断した場合は、
利潤関数は、
r=a-C-b
r10=a-C-(sα1+1)b
r20=a-C-(sα2+1)b
供給関数は
r=sb /k
r10=sb /k10
r20=sb /k20
図1と同じく、k10=0.5、k20=1、Ⅽ=50とすると、P=100- とすると、
r=100-50- =s(a-Ⅽ)/(k+s)=0.8*50/(1/3+0.8)=600/17ですので、 =250/17となり、
r10=50-(0.8*1+1) =50-1.8*250/17=400/17
r20=50-(0.8*2+1) =50-2.6*250/17=200/17
尚、利潤の比は線形の場合と同様に、r/k=r10/k10=r20/k20となります。
図5:単位利潤関数と供給関数の交点の関係(q-r平面への投影)
(図)
直線と区別し難い曲線になってしまいましたけど、これって曲線なんですが、時駆さんが学んできたのは、線形も非線形も区別なく直線であって、同じ需要曲面とのこと、見たのは下記の図だったようです。x軸はqではなく とするようで、そうしますと、全てが直線で表されることになります。従属度α軸もαではなく、sαとすると、線形、非線形の区別なく同じような図になりますね。
図6:単位利潤関数と供給関数(q軸をq→ に変更)の交線の関係(q-r平面への投影)
時駆老人:肝心なところの記憶が曖昧と言うか、理解できて無かったせいか、お手数をかけちゃいましたね。
ゆき:隅谷先生の言葉の「理論はシンプルで有ってこそ価値が有る」ってことが良く理解できました。シンプルですと、再現するのも楽ですし、非線形でも厄介なべき乗の計算も不要ですし、ともあれ至って計算が楽ですね。
(続く)
暫定的にアップします。
以下の文は図表や特殊文字などが上手くアップできませんでしたが、とりあえず掲載します。掲記のPDF版が正式版です。
・・・・・・・・・
ゆき:本題に入りたいと思いますが、隅谷・長島理論とはどういう理論ですか?
時駆老人:一言で言うなら、産業論の包括的体系の構築です。現代の高度化・複雑化した産業の分析にとっては必須の理論です。
50年以上前の1967年に出版された隅谷三喜男先生編著の『鉄鋼産業の経済理論』において、長島敏雄さんが、ブリキ薄板(鋼板)に着目し、そこにおける八幡製鉄とそのユーザーである東洋製缶の関係において、ある種の競争関係、言うなれば間接的な競争関係にあると示唆したのが始まりと言えそうです。
例えば、1つの製品があり需要関数が与えられたとします。その製品において、多くの企業が部品を生産したり、それを組立・加工し製品化したりと関与していますが、その関与している企業間に如何なる直接的・間接的な競争関係が存在するのかと言うのかが課題です。そして、ある企業から見た時、市場がどのように見えるのか。例えば、間接的な競争における利潤最大化行動とは如何なるものなのかとか、需要関数はそれぞれ如何なるものなのか等々。
ゆき:先ずは、単純化して具体的な数値で見てみないとイメージが湧きにくいかも知れませんね。
時駆老人:そうですね。単純化して2者競争でみることにしましょう。或る製品がそれぞれ独占の2つの企業の分業により生産されているとします。それぞれ、サブシステム1における企業10と、サブシステム2における企業20として、
需要関数 P=100-q
単位費用をそれぞれ、C10=20、C20=30とします。両者ともクールノー的な行動(k10=k20=1)を採ったなら、市場均衡はどうなるかというと;―
関係式はP=(a+kⅭ)/(k+1)ですので、これに代入すれば良いだけですが、ここで注意を要するのが、直接的な競争のみの場合はk=k01+k02であったのに対し、間接的な競争の場合は、1/k=1/k10+1/k20の関係にあります。ですので、両者ともクールノー的な利潤最大化行動を採るなら、
1/k=1/k10+1/k20=1/1+1/1=2ですので、k=1/2となります。
単位コストはC=C1+C2=20+30=50ですので、
価格P=(a+kⅭ)/(k+1)=(100+0.5*50)/(0.5+1)=250/3≒83.33
供給数q=100-P=q10=q20=50/3≒16.66
供給数1個当たりの利益(単位利潤r)は、以下の様に計算されます。
r10=k(a-C)/[k10(k+1)]=0.5*(100-50)/(1*1.5)=50/3≒16.66
r20=k(a-C)/[k20(k+1)]=0.5*(100-50)/(1*1.5)=50/3≒16.66
それぞれの企業の利潤はπ10=π20=2500/9≒277.78
ゆき:以上をまとめて整理しておきますと以下の様になります。
表1:双方がクールノー的行動を採った場合
(表)・・・冒頭にアップしたPDF版を参照ください
利潤は費用とは無関係であり、kの値のみに依存します。
・・・・・・・・・・・・・
全体の構造を理解するために、
補足1
サブシステムhにおけるj番目の企業をkhj、Ⅽhj、qhj、…、とサフィックスhjをつけて表記する。サブシステムhの合計として、kh、Ⅽh、qh、…、とサフィックスhをつけて表記。
サブシステムhとサブシステムh内の個々の企業の関係(合成)
kh=Σkhi=kh1+kh2+,…,+khn
サブシステムのコストの合成には以下の様な調整が必要です。
Ch=(ΣkhiChi)/kh=(kh1Ch1+ kh2Ch2+,…..,+khnChn)/(kh1+kh2+,…,+khn)
q=qh=Σqhi
全体とサブシステムの関係(合成)
1/k=Σ1/ki=1/k1+1/k2+,…,+1/km
Ⅽ=ΣCi=C1+C2+,…,+Cm
(サフィックスの付け方について)
尚、例えば独占の場合、直接的な競合企業が存在せず区別する必要がない場合はj=0とし、
この場合は、kh0=kh、Ⅽh0=Ch、rho=rhであり、特には区別しないものとします。
また、導入編の様に直接的競争のみを扱う場合はh=0と表記します。
具体的な数値で計算しておきます。
それぞれのkhj及び単位コストChjが与えられれば均衡がもとめられます。例えば、サブシステム1は2者競争、2は3者競争、3は4者競争として、それぞれ
k11=4.8、k12=3.2、C11=15、C12=15.5
k21=5、k22=3、k23=2、C21=3.4、C22=3.8、C23=5.3
k31=8、k32=4、k33=16、k34=12、C31=30、C32=30.3、C33=31,C34=31.5
それぞれを合成し、
k1=k11+k12=8、k2=k21+k22+k23=10、k3=k31+k32+k33+k34=40、1/k=1/k1+1/k2+1/k3=1/4、よってk=4
C1=(k11C11+k12C12)/k1=15.2、C2=(k21C21+k22C22+k23C23)/k2=3.9、C3=(k31C31+k32C32
+k33C33+k34C34)/k3=30.9、C=C1+C2+C3=15.2+3.9+30.9=50
システム全体としては、単位コスト50のクールノー的な利潤最大化行動を採る4社による競争に集約できます。
価格は、P=100-q=(a+kⅭ)/(k+1)=(100+4*50)/(4+1)=60
供給数は、q=100-P=40
単位利潤は、r=P-C=(a-C)/(k+1)=50/5=10、
サブシステムの単位利潤比は、r1:r2:r3=k/k1:k/k2:k/k3の関係にありますので、
r1=k*r/k1=4*10/8=5、r2= k*r/k2=4*10/10=4、 r3= k*r/k3=4*10/40=1
例えば企業hjの供給数は、khj=qhj/rhjの関係より、
q11=k11r11=k11*(r1+C1-C11)=4.8*(5+15.2-15)=24.96
q12=k12r12=k12*(r1+C1-C12)=3.2*(5+15.2-15.5)=15.04
同様に、qhjを計算していきます。
纏めますと、
表2:システム全体
(表)
単位コスト50のクールノー的な利潤最大化行動を採る4社に集約。
次に、サブシステムに展開しますと、
表3:サブシステムへの展開
(表
単位コスト15.2のクールノー的な利潤最大化行動を採る8社、単位コスト3.9のクールノー的な利潤最大化行動を採る10社、単位コスト30.9のクールノー的な利潤最大化行動を採る40社による間接的競争に展開。
次に、各企業に展開すると、
表4:企業への展開
(表)
サブシステム内の直接的競争に展開、およびコストの補正。
補足2
間接的競争及び直接的競争における最大化条件を記しておきます。例えば、企業11(独占の場合は企業10)の利潤最大化条件は;―
k11= +1/( +1)
直接的競争のみなら、他のサブシステムに関する1/(Σ1/ki+1)項は捨像され、
k11=k12+…+k1n+1
独占で直接的な競争が無いなら、サブシステム内の競合に関するΣk1i項は捨像され、
1/k10=1/k2+1/k3+….+1/km+1
・・・・・・・・・・
ゆき:そして、実際には企業はクールノー的な行動を採っている訳でもなく、任意のkhjを採っているんですよね。
時駆老人:そうですね。例えば、独占企業10が利潤最大化を図るなら、間接的な競争の場合の条件は、
k10=1/(1/k20+1)
ですので、企業20がクールノー的な最大化条件であるk20=1を採るなら、企業10が
k10=1/(1/k20+1)=1/(1+1)=0.5を採ると企業10の利潤は最大化します。kを求めると、
1/k=1/k1+1/k2=1/0.5+1/1=3となりますから、k=1/3
P=(a+kⅭ)/(k+1)=(100+1/3*50)/(1/3+1)=250/3=87.5、供給数はq=12.5で、それぞれの1単位当たりの利潤r10、r20は、
r10=k(a-C)/[k1(k+1)]=1/3*(100-50)/(0.5*4/3)=25
r20=k(a-C)/[k2(k+1)]=1/3*(100-50)/(1*4/3)=12.5
と計算されますから、企業10の利潤π10=r10*q=312.5、一方、企業20利潤π20=156.25
如何なる場合であれ、k=1が全体の利潤最大化条件となりますから、その際の価格はP=75ですが、いずれもこの価格を超えていますね。間接的な競争の場合は、利潤フロンティア上にあるための条件は1/k1+1/k2=1を満たす必要が有り、この場合、両者の合計利潤は最大化(π10+π20=625)しますので、両者ともにより競争的に振る舞うことが必要なようです。例えば、k1=2ならk2=2,k1=3ならk2=1.5といったケースで両者合計の利潤が最大化します。
ゆき:k1=2ならk2=2,k1=3ならk2=1.5といったケースも計算しておきます。
表5:両者合計の利潤最大化(1/k=1/k1+1/k2=1の条件を満たすケース)
(表)
合成の誤謬とでも言うべきなのか、部分最適は必ずしも全体最適とはならないと言うべきなのか、各々が利潤最大化的な行動を採ると、逆に利潤は減ってしまうことになる様ですね。
ところで、間接的な競争の場合の需要関数と言うか、ある種の反応関数と言うべきなんでしょうが、どうなるんでしょうか。
時駆老人:間接的な競争の場合、取引関係などによって、コストの重複なども有って、厄介なところが有るのですが、そのため、コストを捨象し、利潤のみに着目して分析されるようです。そうしますと同じ土俵で比較できますし。コストに関しては、全体を次の様に纏めてしまい、
C=C1+C2+,..+Cn=Σk1iⅭ1i/k1+Σk2iⅭ2i/k2+…+ΣkniⅭni/kn
これを実効単位費用Ⅽとして一括し、且つ捨象してしまう手法です。需要関数から単位コストⅭを捨象したものを補正需要関数ないしは単位利潤関数としてrで表現しますと、
r=P-Ⅽ=100-Ⅽ-q
例えばそれぞれの単位利潤関数は以下の様に表されます。企業10が利潤最大化した際のk10=0.5、k20=1,k=1/3、Ⅽ=50を代入しておくと、
r=(a-Ⅽ)-q=50-q
r10=(a-Ⅽ)-(1/k20+1)q=50-2q
r20=(a-Ⅽ)-(1/k10+1)q=50-3q
これに対して一種の供給関数とでもいう物でしょうか、
r=q/k=3q
r10=q/k10=2q
r20=q/k20=q
それぞれの交点はで単位当たりの利潤が求められますが、以下の式から計算できます。
r=(a-Ⅽ)/(k+1)=50/4/3=37.5
r10=k(a-Ⅽ)/[k1(k+1)]=1/3*50*3/2=25
r20 =k(a-Ⅽ)/[k2(k+1)]=1/3*50*3/4=12.5
当然ですが、r=r10+r20 です。
ゆき:ここで以上を整理しておきますと以下の様になります。
表6:企業10が利潤最大化
(表)
図で表しますと、
x軸に数量q、y軸に単位利潤rの座標に描くと、q=q10=q20=12.5の垂直な線上で、それぞれの単位利潤関数と供給関数が交わることになります。
図1:単位利潤関数と供給関数の交点の関係(q-r平面への投影)
(図)
需要関数というか、単位利潤関数と言うべきでしょうが、他のサブシステムの競争状態というかkhの値によって大きく変化するんですね。他のサブシステムの寡占度が高まれば高まるほど単位利潤関数は急峻になりますし、ある意味では市場が縮小したように見えそうですね。
時駆老人:そうなります。あるサブシステムから見ると他の間接的競合関係にあるサブシステムの競争状態を表すkhの値によって、市場が拡大したり縮小したりするように見えてしまいますね。実際の製品って多数のサブシステムから構成されていますし、それらの寡占度如何によって直面する市場は変化します。
先ほど企業10の単位利潤関数として、以下を示しましたが、これって
r1=(a-Ⅽ)-(1/k2+1)q=50-2q
となりますので、システム全体の単位利潤関数の傾きが-1であったのが-2と急峻になってしまってます。
更に追加してサブシステム3を加えると(尚、サブシステム1,2は独占ですから、k10=k1、k20=k2)、
r1=(a-Ⅽ)-(1/k2+1/k3+1)q
更に、サブシステムを追加していくと
r1=(a-Ⅽ)-(1/k2+1/k3+1/k4+….+1/kn+1)q
となるんですが、ここで、
α1=1/k2+1/k3+1/k4+….+1/kn=1/k-1/k1
とおいて、このα1をサブシステム1の従属度と定義し、これをz軸として追加し、単位利潤関数は3次元で表記されていました。そうしますと
r1=(a-Ⅽ)-(1/k2+1/k3+1/k4+….+1/kn+1)q=50-(α1+1)q
と表現されるのですが、α1の値が大きくなるほど、つまり従属度が高くなるほど、サブシステム1から見える単位利潤関数は急峻となり、実質的に市場が縮小します。
他のサブシステムの全てが完全競争ならr1=50-qなのが、α1が大きくなるのに従い、直線の傾きが-2とか-3とか、どんどん急峻になって行きます。それと、サブシステムの利潤って、1/khに比例し、例えば、k1=1、k2=1.5、k3=2.3、…、kn=0.5なら、サブシステムとしての利潤の比はπ1:π2:π3:...:πn=1/1:1/1.5:1/2.3:…..:1/0.5という関係になります。
ゆき:図をかきますと、以下の様になりますね。
図2:q=12.5の「r-α平面と平行な面」と単位利潤曲面との交線(r-α平面への投影)
(図)
時駆老人:上の図2は従属度αと利潤の関係を表したものですが、この直線を式で表すと、
r=(a-C)(1-kα)/(k+1)
となるのですが、上の図2の前提では、k=1/3ですので、
r=50(1-α/3)/4*3=37.5-12.5α
となり、r軸との交点の37.5が全体の単位利潤となり、サブシステムの従属度の数値を代入するとそれぞれのサブシステムの単位利潤が求められる構造になっています。サブシステム1はr10=r1=37.5-12.5α=37.5-12.5=25となり、2はr20=r2=37.5-12.5α=37.5-25=12.5となり、r=r10+r20が成り立っています。
単位利潤曲面(図3として後ででてきますのでそれを参照ください)をq=12.5の「r-α平面と平行な面」で単位利潤曲面を切った際の交差する直線を表したものです。
ゆき:サブシステムの利潤って、相対的なものであり、且つkの値のみによって単位利潤は決まるのであって、コストは全体としては影響しても、個々のサブシステムにおいてはそれほど大きな意味を持たない様ですね。例えばサブシステム1のコストダウンの寄与は1/khに応じてサブシステム2も享受できるってことですし。導入編でみた、直接的競争の場合はコストが競争関係において大きな意味を持っていましたけど、間接的な競争におけるコストの意味合いというものはかなり異なってきますね。
時駆老人:そうですね。そもそも、サブシステムの個々のコストを捨象して分析がなされていますし、システム全体としては意味があっても、個々のサブシステムに関しては、特には意味が無いというべきなのかも。言うなれば、競争的なサブシステムほどコストダウンが進むのでしょうが、その恩恵は寡占的なサブシステムにより多く帰属します。
ゆき:話を戻しますが、コストに関しても実際に影響するのは”実効”コストと言う、kで一種の加重平均を採ったようなコストの方なんですね。導入編の方では敢えて触れませんでしたけど、
例えば、導入編の直接的競争に於けるシュタッケルベルグの企業01主導、企業に主導のケースですと、
C=(k01C01+k02C02)/k1=(2*50+1*60)/(2+1)=160/3≒53.33が実効単位コストであって、
P=(100+kC)/(k1+1)=260/4=65
と計算されるべきなんですね。実際の平均コストは、
(C01q01+C02q02)/(q01+q02)=(50*30+60*5)/35=1800/35=360/7≒51.43
となるんですが、実際の平均コストより実効平均コストは若干高めになりますね。
時駆老人:実際のコストに置き換えるには補正が必要となりますが、例えば、サブシステム1の企業11の単位利潤は、
r11=k(a-C) /[k1(k+1)]+t11
と表現されますが、ここでt11は、単位コストの補正項で、以下の様になります。
t11=C1-C11=[k11(Ⅽ11-Ⅽ11)+k12(Ⅽ12-Ⅽ11)+……+k1n(Ⅽ1n-Ⅽ11)]/k1
です。
ここで、サブシステム1を1者の独占から2者競争に拡張し、且つ、シュタッケルベルグ的な最大化行動を企業11がとり、一方、企業12はクールノー的最大化行動、企業20もクールノー的最大化行動を採るとして、試算しておくと、
条件を、C11=19、C12=22、C20=30、k11=2、k12=1、k20=1として、単位コスト及びkの合成を行い、
C1=(k11Ⅽ11+k12Ⅽ12)/k1=(2*19+1*22)/3=20、Ⅽ=C1+Ⅽ2=50
1/k=1/k1+1/k2=4/3ですので、k=3/4
それらを、代入して価格、単位利潤、供給数を求めると、
P=(100+kⅭ)/(k+1)=(550/4)/(7/4)=550/7、q=100-P=150/7
r1=k(a-Ⅽ)/[k1(k+1)]=3/4*50/[3*(3/4+1)]=50/7
r2=r20= k(a-Ⅽ)/[k2(k+1)]=3/4*50/[1*(3/4+1)]=150/7
q11=k11r11=k11(r1+C1-C11)=2*(50/7+20-19)=114/7
q12=k12r12=k12(r1+C1-C12)=1*(50/7+20-22)=36/7
などと、計算されます。
ゆき:整理しておきますと、
表7:全体からのサブシステム、個別企業への展開
間接的な競争の場合、個々のサブシステムに関して、直接的競争関係にある全ての企業を集約して、単位コストⅭhを持つクールノー的利潤最大化行動を採る企業数khとして扱いますし、それが間接的な競争において実質的に意味を成すってことですね。
それと、実数計算の仕組みって、個別企業から計算し、それを積み上げるのではなくて、逆に全体を計算してから、サブシステム、更には個別企業に展開していくんですね。
それから、企業11はサブシステムという枠組みではシュタッケルベルグ的な利潤最大化行動となっていますけど、サブシステム2も斟酌した場合には、利潤最大化とは言えないんですね。
時駆老人:単に直接競争の相手のみではなく、間接競争に対しても斟酌する必要があります。
企業11の間接競争も含めた利潤最大化条件は、
k11= +1/( +1)=k12+1/(k2+1)=1+1/2=3/2
となりますから、k11=2をk11=3/2に置き換えると、企業11の利潤最大化となります。
ゆき:計算をしておきますと、
表8:企業11の利潤最大化
表3と比較すると、最も恩恵を受けるのは、企業11ではなくて、企業12の方ですね。企業11にとっては、価格上昇の恩恵は有りますが数量減となりますし、一方、企業12にとっては価格上昇に加え数量増加となりますので。それに引き換え、企業22にとっては価格下落・数量減のダブルパンチですね。
仮に、企業11がk11=k12+0.5の関係を維持するなら、企業12の利潤が最大化するのはk12≒0.39898の場合ですね。企業11と企業12にコスト差が無ければ、k12=0.5の時に追随としての利潤が最大化することになります。
チョット、余談になりますが、上の表の計算って意外に簡単で、k=5/7、C1=20.2、Ⅽ=50.2を求め、P=(a+kⅭ)/(k+1)=317/4を計算しますと、あとはq=100-P=83/4、r=P-C=317/4-50.2=29.05、およびr:r1:r2=1/k:1/k1:1/k2=7/5:1/2.5:1/1=7:2:5の単純な関係ですから、そこからr1=kr/k1=5/7*29.05/2.5=8.3を求め、更にq11=k11r11=1.5*(r1+Ⅽ1-Ⅽ11)=1.5*(8.3+20.2-19)=14.25と計算することによって、簡単に表に数値を埋めることができます。
ゆき: 少し横道に迷い込んでしまいましたけど、話を戻して、単位利潤曲面について見てみたいと思いますが。
時駆老人:まずは、ゆきさんに描いて頂いた図の構造から見ておくべきでしょうが。ゆきさんから説明していただいた方が良いのでは。
ゆき:実に不思議な曲面ですね。最初、お話を聞いた時にはさっぱり意味が分からなかったのですが、一つ一つ整理していくと、一見なんてことは無さそうでいて、実に意味深い図が出来上がりました。
図3:単位利潤曲面
(図)
時駆老人:私の理解不足に加え、非線形のケースまでごっちゃにしてしまったので、復元はかなり厄介だったでしょうね。
ゆき:0から作るのでしたら、そんなアイデアは浮かびさえしませんが、おおまかでも全体像が示されれば、復元するのって意外に簡単なもんですね。
話を戻しますが、
”q-r平面”と平行な平面で切ると、交線は全て直線(図1)ですし、同じく、”r-α平面”と平行な平面で切っても交線は全て直線(図2)となります。それぞれの平面である、q-r、r-α、q-αの3つの平面との交線は、それぞれ、
r=50-q
r=50
α=1/k=(50-q)/q
で表されるのですが、q-r平面との交線は、α=0ではなく、敢えてα=-1へとずらしてr=50、α=-1のq-r平面に平行な平面を基準にするるんですね。何も敢えて、そんな芸当を使わなくとも良いのではと思ったのですが、意外に便利で、且つ普遍性も有る様です。
図4:需要関数が非線形
「r-α平面と平行な面」と単位利潤曲面との交線(r-α平面への投影)
(図)
例えば、需要関数がP=100- の様な非線形であってもずらすことによって容易に解を求めることができますし。例えば、s=0.8としますと、-1の代わりに-1/0.8=-1.25ずらしたところから直線を引けば良いだけです。非線形であっても簡単に解を求められ、例えば、サブシステム1の単位利潤ならば、以下の式に数値を代入するだけで求められます。
r1=sk(a-C)/[k1(k+s)]=0.8*1/3*50/[0.5*(1/3+0.8)]=400/17
単に代入するだけで、厄介な計算は不要です。単に1を0.8に置き換えするだけで、線形の場合と同じ要領で解が求められます。
比例計算で、r1:2=50:(3+1.25)の様にしても求められます。(-1/s、50)の直線を起点にして、α=1/kへ直線を引くだけで良いです。
話を戻しますが、平面で考察するより、曲面で考察する方が、情報量が増えますし、なにかと計算も楽そうです。
それと、非線形を線形の様に変換してしまうってのは、不思議なもんですね。これって、kの持つ特性とでも言ったら良いかも。kの意味って、
例えば、需要関数をP=a-bq.. としますと、k11なら、
k11=bsq11/(r11q.. )
となる様です。P=100-qとすれば、s=b=1ですので、k11=q11/r11と単純化でき、単に[(企業11の供給数)/(企業11の単位利潤)]となりますが、非線形の場合は少々複雑ですね。非線形を線形の様に変換できる秘密ってのは、どうもkの式を見れば納得できる感じがします。kには非線形を線形に変換する機能が内包されているんですね。
次にkの合成の仕組みを見てみると
k1=k11+k12+,…,+kn= bsq11/(r11 )+ bsq12/(r12 )+,…,+ bsq1n/(r1n )
=bs(q11/r11+q12/r12+,..,+q1n/r1n) /
となるんですが、q11/r11+q12/r12+,..,+q1n/r1n=q/r1なんですね。というか、そうなるように調整されていると言うべきなんですが、そうしますと、
k1= bs(q/r1) / =bs /r1
1/k=1/k1+1/k2+,…,+1/kn=r1/ bs + r2/ bs +,…,+ rn/ bs =r/ bs
こんな合成の仕組みになってるんです。
価格や単位利潤の式を比べてみると、
価格は、
P=a-q=(a+kC)/(k+1)
P=a-b =(sa+kⅭ)/(k+s)
単位利潤は、
r= a-Ⅽ-q=(a-Ⅽ)/(k+1)
r=a-C-b =s(a-Ⅽ)/(k+s)
非線形の場合、線形における1がsに置き換わると言うか、寧ろ、線形の場合はs=1となるだけのことで、線形も非線形も特には大した差異は無さそうです。
尚、q-r平面で切断した場合は、
利潤関数は、
r=a-C-b
r10=a-C-(sα1+1)b
r20=a-C-(sα2+1)b
供給関数は
r=sb /k
r10=sb /k10
r20=sb /k20
図1と同じく、k10=0.5、k20=1、Ⅽ=50とすると、P=100- とすると、
r=100-50- =s(a-Ⅽ)/(k+s)=0.8*50/(1/3+0.8)=600/17ですので、 =250/17となり、
r10=50-(0.8*1+1) =50-1.8*250/17=400/17
r20=50-(0.8*2+1) =50-2.6*250/17=200/17
尚、利潤の比は線形の場合と同様に、r/k=r10/k10=r20/k20となります。
図5:単位利潤関数と供給関数の交点の関係(q-r平面への投影)
(図)
直線と区別し難い曲線になってしまいましたけど、これって曲線なんですが、時駆さんが学んできたのは、線形も非線形も区別なく直線であって、同じ需要曲面とのこと、見たのは下記の図だったようです。x軸はqではなく とするようで、そうしますと、全てが直線で表されることになります。従属度α軸もαではなく、sαとすると、線形、非線形の区別なく同じような図になりますね。
図6:単位利潤関数と供給関数(q軸をq→ に変更)の交線の関係(q-r平面への投影)
時駆老人:肝心なところの記憶が曖昧と言うか、理解できて無かったせいか、お手数をかけちゃいましたね。
ゆき:隅谷先生の言葉の「理論はシンプルで有ってこそ価値が有る」ってことが良く理解できました。シンプルですと、再現するのも楽ですし、非線形でも厄介なべき乗の計算も不要ですし、ともあれ至って計算が楽ですね。
(続く)